「思った色と違う…」その原因は、1つじゃなかった!
「やっと決めたブランドカラー。PC画面では完璧だったのに、仕上がったTシャツを見たら『なんか色がくすんでる…』。」
こんな経験、多くのデザイナー、ブランドオーナーが通る道です。しかし、実はさらに深い悩みがあることをご存知でしょうか?
「指定したPantoneカラーと、出来上がった織りネームの色が微妙に違う…」
色のズレは、PCとインクの違い(デジタルとアナログ)だけでなく、インクと糸の違い(液体と個体)、そして糸同士が影響し合う「織り」という物理現象によっても起こります。
この記事を読めば、基本的な色のルール(Pantone/CMYK)に加え、プロが現場でどうやって色を合わせ、どう課題を解決しているのかがわかります。あなたのブランドカラーを、あらゆる素材で最大限理想に近づける方法を学びましょう。
第1章:色の世界の「3つのルール」- RGB・CMYK・Pantone
1-1. なぜPC画面の色はアテにならない?(光の色:RGB)
まず大前提として、私たちが普段PCやスマートフォンで見ている色は「RGB(Red, Green, Blue)」という「光の三原色」で表現されています。光を混ぜて色を作るため、非常に鮮やかで美しい色が表現できます。
しかし、Tシャツやタグは光を発しません。インクや糸といった「モノの色」です。光そのものであるRGBと、光を反射して見えるモノの色では、再現できる色の範囲が根本的に違うのです。
【例えるなら】
RGBが色鮮やかな「ステンドグラス」だとすれば、CMYKやPantoneは「絵の具」。光そのものと、光を反射するモノでは、色の見え方が違うのは当然ですよね。
1-2. CMYKとは? -「4色のインクの掛け合わせ」
CMYKは、Cyan(シアン=水色)、Magenta(マゼンタ=ピンク)、Yellow(イエロー=黄色)、Key plate(黒)の4色のインクの小さな網点を掛け合わせて、あらゆる色を表現する方式です。「プロセスカラー」とも呼ばれ、家庭用のプリンターや雑誌の印刷で使われています。
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得意なこと: フルカラーの写真や複雑なグラデーションの表現。
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主な用途: DTFプリント、インクジェット印刷など。
1-3. Pantoneとは? -「世界共通の色見本であり、色のレシピ」
Pantone(パントン)は、世界中で使われている色見本帳のスタンダードです。すべての色に「PANTONE 185 C」のような固有の番号が振られています。
この番号は、その色を再現するためのインクの配合指示(レシピ)の役割も果たします。職人はこのレシピに基づいてインクを調合し、「特色」と呼ばれる特別な色を作り出します。
Pantoneは、デザインのゴール(目標地点)を示す「設計図」であり、この後のすべての制作工程は、このPantoneカラーを目指して進められます。
【補足:DICカラーとの違い】
ちなみに、日本では「DICカラーガイド」も有名ですが、これは日本の工業規格です。オルターワークスのように海外の工場で生産する場合、世界標準であるPantoneでの色指定が基本となります。DICカラーで指定したい場合は、対応可能か事前に確認することをおすすめします。
第2章:【実践編】素材と製法でこんなに違う!色指定のリアル
では、実際にモノづくりをする際、どの色指定を使えば良いのでしょうか?
2-1. 【DTFプリント】CMYKの得意分野
写真や多色イラストなど、フルカラーのデザインをTシャツにプリントする場合、CMYKでデータを作成します。デザインの再現性が高く、多彩な表現が可能です。
2-2. 【シルクプリント】Pantoneが最も活きる舞台
ブランドロゴなど、単色ベタ塗りのデザインに最適です。指定されたPantone番号の色を再現するために、職人がインクを精密に調合して特色インクを作るため、色の再現性が極めて高くなります。絶対にブレてほしくないブランドカラーは、シルクプリントが最も得意とするところです。
2-3. 【タグ制作】Pantoneを「基準」に、現実とすり合わせる世界
プリントネームはシルク印刷で作るため、インクの色をPantoneにかなり近づけられます。比較的、色の再現性が高い方法です。
※それでも、下地となる生地が黒や濃紺など暗い色の場合は若干引きづられて、色が暗くなる場合がございます。
織りネームは、色指定の奥深さが最も現れる製品です。ここには2つの大きな「現実」があります。
STEP1:色合わせの現実 – 「完全一致」ではなく「近似色」
織りネームはインクではなく、「既に染められた糸」を使って作られます。そのため、工場にある膨大なストック糸の中から、指定されたPantoneカラーに最も近い色(近似色)を選んで使用します。インクのようにゼロから調合するわけではないため、「完全一致」は物理的に不可能なのです。
STEP2:色の干渉 – 織り方によって色は“変化”する
さらに、選んだ糸も織り方によって見え方が変わります。隣り合う色の違う糸が、私たちの目の中で視覚的に混ざり合って見える「色の干渉」が起こるからです。
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【具体例1:暗い色への引っぱり】
「黒地」に「白のロゴ」を織ると、白い部分が背景の黒糸の影響を受け、少しグレーがかって見えることがあります。 -
【具体例2:ビビッドカラーの影響】
「白地」に「真っ赤なロゴ」を織ると、白い部分が赤の影響で、ほんのりピンクがかって見えることがあります。
これは不良品ではなく、織物特有の物理現象です。この現象を理解し、デザイン段階で考慮することが、イメージ通りのタグを作るためのカギとなります。
第3章:プロが教える!理想の色に近づけるためのテクニックとQ&A
では、どうすればこの色のブレを乗り越えられるのでしょうか?
3-1. 織りネームの色ブレを最小限にするには?
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デザインでの工夫(メリットとデメリット)
ロゴの周りに細い縁取りを入れると、色の干渉が和らぐことがあります。
ただし、文字が小さい場合やデザインが複雑な場合は、縁取りが潰れてしまい、かえって読みにくくなるデメリットもあるため、デザインとのバランスが重要です。 -
糸の質感
糸には光沢のあるものとマットなものがありますが、オルターワークスでは基本的にマットな質感の糸を使用しています。これにより、ギラギラせず、落ち着いた高級感のある仕上がりを実現します。(シルバー、ゴールド、グリッター系の糸を除く) -
事前の相談
「この色の組み合わせだと、どう見えそうか?」を事前に私たちプロに確認していただくことが、何よりも失敗を防ぐ最善の方法です。
3-2. 色指定でよくあるギモンQ&A
Q. Pantoneの「本物の色」はどうやって確認すればいいの?
A. 最も確実なのは、Pantone社が出版している物理的な色見本帳(カラーガイドブック)で確認することです。これはデザイナーや印刷会社が使用する高価な専門ツールですが、色の絶対的な基準となります。ここで非常に重要なのは、「PCのモニターで見るPantoneカラーも、RGBで再現された近似色に過ぎない」という事実です。モニターの色はあくまで参考と捉えましょう。
Q. 織りネームの色が、Pantone見本帳とピッタリ同じにならないのはなぜ?
A. インク(液体)と糸(個体)という素材の違い、そして工場にある既存の糸から最も近い色を選ぶ「近似色」での対応になるためです。
Q. 色の知識が全くなくても大丈夫?
A. もちろんです!「温かみのあるオレンジ」「クールなネイビー」といった抽象的なイメージをお伝えください。私たちがプロとして、そのイメージを形にするお手伝いをします。
【まとめ】色指定はゴールじゃない。理想を追求する「対話」の始まり
色指定(Pantone/CMYK)は、あなたのブランドのこだわりを正確に伝えるための「共通言語」であり、「設計図」です。
しかし、それはゴールではありません。素材や製法の特性を理解し、時にはプロと「対話」しながら、どうすれば理想に近づけるかを一緒に考える「旅の始まり」なのです。
この奥深い色の世界を理解することで、あなたのブランドはさらに説得力を増すでしょう。色のことで迷ったら、ぜひ私たちにご相談ください。